「この後、どうすればいいのか、お医者さんは何も言ってくれないんだけれど……」
「入所する親の今後のことについて、施設と腹を割った話し合いができずに困っている」
「病院から『もしもの時にどうするか考えましょう』と言われたけれど、怖くて何も考えられない」
「家族ともしもの時のことを話し合いたいけれど、『縁起でもない』と言われて避けられてしまう」
言葉にできなくても、「もしもの時」を見据えて、こんな悩みを抱える少なくない数の人たちがいます。
超高齢社会の日本においては、また本格的な多死時代に入れば、その数はこの後もどんどん増えていくでしょう。
もしもの時……、それは限りなく死に近くなった状態の時のことです。
この時のことについて、厚生労働省は2018年3月に11年ぶりに『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』を改訂。主として医療従事者や介護従事者など専門家向けに指針を打ち出しました。
これは、「もしもの時」、あるいは「『もしもの時』を意識した時」、どのように医療やケアを選んでいけばいいのか、本人または家族に対する専門家としての関わり方について示したものです(ちなみに、それ以前のガイドラインは『人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン』という名称でした。2018年のこの改訂で、ガイドラインの名称に「ケア」という言葉が入ったことにも大きな意味があります)。
この改訂の大きなポイントの一つに、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)、愛称「人生会議」の概念が盛り込まれ、その大切さが強調されたことがあります。
このことにより、全国の病院や施設などでACPを実践しようという動きや、さらには一般の人たちにも普及・啓発をしようという動きが加速しました。
冒頭の悩みには、こんな背景も影響を与えているのではないかと想像できます。
では、ACP、「人生会議」とは何か。
厚生労働省が公開したリーフレットにはこう書かれています。
「もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて、前もって考え、繰り返し話し合い、共有する取組を『人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)』と呼びます」
端的に言って、みんなで話し合おうということです。
しかし、これがなかなかうまくいきません。
病人や家族、介護を必要とする人やその家族の間ではもちろんのこと、医師や看護師、施設職員や訪問介護に関わる人など専門家でも話し合いのきっかけをつかむことすら難しい、あるいは話し合いが行き違ってしまう場合も少なくないのが現実です。
なぜなのか。
その理由には次のようなものが考えられます。
私自身は、医療従事者や介護従事者などの専門家ではありません。しかし、かつての患者家族(つまり今は遺族)として、冒頭近くに紹介した『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』の改訂に関わった検討会メンバーの一人です。
医療や介護の専門家ではない私がなぜメンバーなのかというと、それは亡き夫が先駆けてACPを実践したからに他ならないと理解しています。しかも彼は、ACPの本質を体現した存在であると言っても過言ではありません。
ガイドラインの改訂に関わった一人として、また、普及・啓発に取り組む一人として、なによりACPを実践した人間のもっとも近くにいた者として、ACPの意義と価値を体感していますし、加えてその可能性を実感しています。
これまでは、ご縁のある人にのみACPのサポートのようなことをしてきましたが、ACPが誤解されて広まることで、もしもの時に苦しみを抱える本人や家族がいること、多死時代に入り同様の苦しさを抱える人が増えていくことが予想されること、さらにACPを知らない本人やご家族から同様のサポートのご希望を頂戴することから、このたび、正式にACPの支援を事業として立ち上げることにしました。
お悩みの方はまずはお気軽にご連絡ください。
ご期待通りではないかもしれませんが、すぐに答えが見つからないことこそがACPの本質かもしれません。なぜならACPは話し合い続ける取り組みだからです。しかし、それが当事者だけでは難しいことは、前述の通りです。
そしてこの場合、「当事者」とは、本人に関わる医療従事者や介護従事者も含まれることを書き添えておきたいと思います。
正解のない問いに対して、本人はもとより関わる人たちが話し合い続けることで、大切なことが見えてくる……。その営みは、私たちのいきかたさえも変えてくれるかもしれません。
始まりのきっかけになれば幸いです(^_^)